Asuka Katagiri

   

 もしも写真がなかったら

 
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Thursday, January 10, 2008 11:11 AM
「レンズをめぐる冒険」


20歳ぐらいまでは、カメラやレンズは工業製品だから、
新しいものほど良いものだろうと漠然と思っていた。
だからそのころ手に入れた唯一のレンズ、
シュナイダー製のアポ・ジンマーは当時の最新型だった。
このレンズを4×5のビューカメラに付け使っていた。
でも実際そのときメインで使っていたカメラは既に製造中止の、
高校の友人から譲ってもらった中古のニコンの一眼レフだった。
今では出番はめっきりなくなったが、
35mmで撮影となれば今でもこのカメラを手にするだろう。
もう一台買えるだけの費用をかけて修理を繰り返してきたけれど。
特別性能がよいとか、
デザインが特別気に入っているとかではないけれども、
それなりにきちんと作られ気負いなく使えるところがいい。
だから実際はどうもカメラやレンズは新しいものほど良いものだろうと思いつつも、
手にしていたカメラは新しいとは決して言えないものだった。
ここ10数年持ち歩くカメラはハッセルブラッドだ。
もともと中古のカメラを使っていたこともあったけれども、
2台のハッセルを使い込んで修理を諦め引退させた後、
今は新品を手に入れ使っている。
同じカメラを長年使い続けることで良いことも多いが不満が無いわけでもない。
手に馴染み身体の一部とになった道具は未知の領域が失われる。
写真にすることで現れる予測を超えた驚きに乏しくなる。
そんな数年前、ふとしたきっかけで手元にやってきたのが、
50年ほど前に作られたレンズ、
フォクトレンダー製アポランサー300mmF4.5だった。
シャープでありながらとても柔らかいボケ味のレンズで、
古いこともあって扱いにくいが独自の深みのある画だった。
このレンズに出会って、
工業製品は新しいものほど良いという考えが変わってしまった。
モノラルレコードのように昔の製品が一つの完成に達していたものがあることを知った。
そのようなこともあってか今では8×10でも使える大判用の300mmレンズが4本ある。
全て製造中止で私にとっては代わりのないレンズだ。
知る必要もないと思っていた領域に未知の魅力的なものを見つけた気分だ。



 
   
 
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